12回目のIPWカフェのミニレクチャーの講師は、城西大学模擬患者研究会SPで、かつ、坂戸市の地域交流ボランティア「よりあい*ええげえし」の事務局長をなさっている須田正子さん。お話のタイトルは「模擬患者を通じて得たもの ~ボランティア・地域活動と重なる学びの場~」でした。
医療・看護・福祉を学ぶ学生や現職を相手に、本物さながらの反応を演ずる模擬患者(SP)さんですが、場面によって求められる要素が大きく二つに分かれるようです。
一つ目は学生が臨床実習に行く前にクリアしなければならない学内での実技試験(OSCE)でのSP。国家資格にも影響するような「客観試験」なので、SPの反応の違いによって合否がバラついてしまってはいけません。そのため、予め《標準化》のための厳格なルールが定められており、SPさんたちはルールに反しないよう注意深く設定された患者を演じます。
もう一つは、SAIPEで主催している現職のスキルアップを目指した「IPW緩和ケア研修会」のような場面でのSP。こちらにも「事前の設定」はありますが、「試験」のように厳密な客観性が求められるわけではないため、時には「素の自分」も織り交ぜながらSPさんたちは様々な患者を演じてゆきます。
たとえ《標準化》された模擬患者に扮しているときでも「生身の人間が演じていることの意味」を感じていると須田さんは言います。
相手を誘導してしまってはいけないので表には出せませんが、SPさんたちも内心「実はこれを聞いてほしい」というのを持っていることがあります。ただ、そんな時でも畳みかけるように矢継ぎ早の質問を連打されてしまうと、「もう答えたくない」という気持ちになります。逆に、心に染み入るように質問されて「こんな風に寄り添ってもらえるなら、もっと話したい」という気持ちになることもあって、「模擬患者なのに、こんなにも感情が動くの!?」と自分自身が驚き、《人に聞く》ことの難しさ・奥深さをSPの側も考えさせられる、とのことです。
こうした《人への寄り添い》は、単に「ニコニコしている・やさしい」ことから生じるものではなく、極めて微妙な「間の取り方」「目線の動き・首の角度」などから感じるものだと言います。また、必ずしも「学生よりも現役の専門職の方が上手い」というわけでもありません。さらには「《人柄の問題》で片づけてしまってはダメ。獲得すべきスキルの一種ではあるけれども、その結果《みんな同じ》になってしまったら、これまた患者は《話したくない》になってしまう」のも難しいところです。このような「《学校教育が一番苦手とする部分》で、若い人たちの成長に貢献できること」にも、須田さんはSPのやりがいを感じています。
もともとは普通の主婦であった須田さんが模擬患者の世界に飛び込んだのは、地域活動で知り合った人に紹介されたことがきっかけ。逆に今では、SPでの経験を通じて学んだ「コミュニケーション」や「人への寄り添い」が、須田さんが幅広く行っている地域活動に活かされています。
須田さんが事務局長をなさっている坂戸市の地域交流ボランティア「よりあい*ええげえし」では、週1回マンションの一室で交流会を行っていますが(現在はコロナのためオンライン)、活動はこれにとどまることなく、坂戸市の市民活動フェアにブースを出展して若い人と交流したり、SPの経験で知り合った城西大の先生を講師に招いて「かかりつけ薬剤師・薬局を知ろう」という勉強会を開催したりしています。このように様々な分野での多彩な活動を通じて、須田さん自身が「ご縁がつながって、地域で自分らしく生きる」を実践し、その活動の輪を広めていこうとなさっています。
須田さんのお話を聞いていると、おそらく誰しもが「バイタリティ・元気・アクティブ・パワー…」などの明るくて前向きな言葉を思い浮かべるはずです。冗談交じりに「高齢者の真っただ中」と自己紹介される須田さんですが、曇るところなく《人と未来を信じている》その姿勢からは「並みの大学生では勝てない若さ」を感じます。この《次の時代・次の世代への明るいまなざし》こそが多数の人を引き付けて、須田さんの「活動の輪」の支えとなり、それを広げる原動力となっているのでしょう。
ちなみに「ええげえし」とは、秩父地方に古くからある「村の互助組織」のこと。その名の語源は「相返し(あいがえし=おたがいさま)」にあるそうです。「ええげえしって何? と聞かれるところから話が広がるんですよ」と、須田さんは笑顔で話されていました。
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